七色の虹《にじ》

併《しか》しこの荒々しい水のすさびに根ざして、七色の虹《にじ》の、常なき姿が、まあ、美しく空に横《よこた》わっていること。はっきりとしているかと思えば、すぐ又空に散って、匂《におい》ある涼しい戦《そよぎ》をあたりに漲《みなぎ》らせている。此の虹が、人間の努力の影だ。あれを見て考えたら、前よりは好《よ》くわかるだろう。人生は、彩《いろど》られた影の上にある![#ここで字下げ終わり]「うまい!」横沢氏は無邪気に褒《ほ》めてくれた。「満点だ。二、三日中に通知する。」「筆記試験は無いのですか?」へんに拍子抜けがして、僕は尋ねた。「生意気言うな!」末席の小柄《こがら》の俳優、伊勢良一《いせりょういち》らしい人が、矢庭《やにわ》に怒鳴った。「君は僕たちを軽蔑《けいべつ》しに来たのか?」「いいえ、」僕は胆《きも》をつぶした。「だって、筆記試験も、――」しどろもどろになった。「筆記試験は、」少し顔を蒼《あお》くして、上杉氏が答えた。「時間の都合で、しないのです。朗読だけで、たいていわかりますから。君に言って置きますが、いまから台詞《せりふ》の選《よ》り好みをするようでは、見込みがありませんよ。俳優の資格として大事なものは、才能ではなくて、やはり人格です。横沢さんは満点をつけても、僕は、君には零《れい》点をつけます。」「それじゃ、」横沢氏は何も感じないみたいに、にやにやして、「平均五十点だ。まあ、きょうは帰れ。おうい、つぎは四ばん、四ばん!」

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