永遠《とわ》の緑の宮殿

お聞きなさい。永遠《とわ》の緑の宮殿の柱が砕けているのです。枝がきいきい云って折れる。幹はどうどうと大きい音をさせる。根はぎゅうぎゅうごうごう云う。上を下へとこんがらかって、畳《かさ》なり合って、みんな折れて倒れるのです。そしてその屍《しかばね》で掩《おお》われている谷の上を風はひゅうひゅうと吹いて通っています。あなた、あの高い所と、遠い所と、近い所とにする声が聞えますか。此山《このやま》を揺《ゆ》り撼《うご》かして、おそろしい魔法の歌が響いていますね。[#ここで字下げ終わり]「僕には朗読できません。」ざっと黙読してみたのだが、このメフィストの囁《ささや》きは、僕には、ひどく不愉快だった。ひゅうひゅうだの、ぎゅうぎゅうだの不愉快な擬音《ぎおん》ばかり多くて、いかにも悪魔の歌らしく、不健康な、いやらしい感じで、とても朗読する気など起らなかった。落第したっていいんだ。「ほかの所を読みます。」 でたらめに、テキストをぱらぱらめくって、ちょっと佳いところを見つけて、大声で朗読をはじめた。第二部、花咲ける野の朝。眼ざめたるファウスト。[#ここから2字下げ]上を見ればどうだ。巨人のような山の巓《いただき》が、もう晴がましい時を告げている。あの巓は、後になって己《おれ》達の方へ向いて降りる、永遠《とわ》の光を先《ま》ず浴びるのだ。今アルピの緑に窪《くぼ》んだ牧場に、新しい光や、あざやかさが贈られる。

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