試験官の真似《まね》をして

 この質問も不愉快だった。「もちろんです。」と少し怒って答えた。試験官でもないのに、要らない事ばかり言いやがる。こんな機会をとらえて、こっそり試験官の真似《まね》をして、ちょっと威張ってみたかったのだろう。「では、どうぞ。」 隣室に通された。がやがや騒いでいたのに、僕がはいって行ったら、ぴたりと話をやめて、五人の男が一斉《いっせい》に顔を挙げて僕を見た。 五人の男が一列に、こちら向きに並んで腰かけている。テエブルは三つ。みんな写真で見覚えのある顔だった。まんなかに坐っている太った男は、最近めっきり流行して来た劇作家兼演出家の、横沢太郎氏にちがいない。あとの四人は、俳優らしい。入口でもじもじしていたら、横沢氏は大きい声で、「こっちへ来いよ。」と下品な口調で言って、「こんどは多少、優秀かな?」 他の試験官たちは、にやりと笑った。部屋全体の雰囲気《ふんいき》が、不潔で下等な感じであった。「学校は、どこだ!」そんなに威張らなくてもいいじゃないか。「R大です。」「としは、なんぼ?」いやになるね。「十七です。」「お父さんのゆるしを得たか。」まるで罪人あつかいだ。むかっとして来た。「お父さんはいませんよ。」「なくなられたのですか?」俳優の上杉新介《うえすぎしんすけ》氏らしい人が、傍《そば》から、とりなし顔にやさしく僕に尋ねる。「承諾書に書いてあった筈《はず》です。」仏頂面《ぶっちょうづら》して答えてやった。これが試験か? あきれるばかりだ。「気骨|稜々《りょうりょう》だね。」横沢氏は、にやにや笑って、「見どころあり、かね?」

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