溜息《ためいき》をついた

「別に、どうしなくても、いいんだ。姉さんは、もう大喜びだよ。兄さんと鈴岡さんが、このごろ毎晩お酒を飲んで共鳴してるって僕が言ったら、姉さんは、ほんと? と言ってその時の嬉《うれ》しそうな顔ったら。」「そうか。」溜息《ためいき》をついた。しばらくじっとしていて、「よし、わかった。僕も悪い。」兄さんはむっくり起きて、「十二時か、進、かまわないから鈴岡さんに電話をかけて、いますぐ兄さんがお伺いしますからって、それから、朝日タクシイにも電話をかけて、大至急一台たのんでくれ。その間に僕は、ちょっとお母さんに話して来るから。」 兄さんを下谷へ送り出してから、僕は落ちついてその日の日記にとりかかったが、さすがに疲れて、中途でよして寝てしまった。兄さんは、下谷の家へ泊った。 きょう、学校から帰って来ると、兄さんは、にやにや笑いながら、なんにも言わずお母さんの部屋に連れて行った。 お母さんの枕《まくら》もとには、鈴岡さんと姉さんとが坐《すわ》っていた。僕が、その傍《そば》へ坐って、笑いながらお二人にお辞儀をしたら、「進ちゃん!」と言って、姉さんが泣いた。姉さんは、お嫁に行く朝にも、こんなふうに僕の名を呼んで泣いた。 兄さんは、廊下に立って渋く笑っていた。僕は、少し泣いた。お母さんは寝たままで、「きょうだい仲良く、――」を、また言った。 神さま、僕たち一家をまもって下さい。僕は勉強します。 あしたは、姉さんの結婚満一周年記念日だそうだ。兄さんと相談して、何か贈り物をしようと思う。

— posted by id at 02:51 pm  

T: Y: ALL: Online:
Created in 0.2894 sec.

http://crystal-wings.net/