姉さんは浮き浮きしている

「あらためます。」姉さんは浮き浮きしている。「だって鈴岡がそう言うもんだから、私までつい口癖になって。」僕には、おのろけのように聞えた。けれども、それをひやかすのは下品な事だ。「僕も悪かったし、兄さんだって、うっかりしてたところがあったんだ。叔母さん、ごめんね。さっきはあんな乱暴な事ばかり言って。」と叔母さんの御機嫌もとって置いた。「それぁ私だって、まるくおさまったら、これに越した事は、ないと思っていたさ。」叔母さんも、さすがに機を見るに敏《びん》である。くるりと態度をかえていた。「だけど、進ちゃんも、利巧になったねえ。舌を巻いたよ。でもね、あの、チョッピリだの何だのと言って、年寄りをひやかすのだけは、やめておくれ。」「あらためます。」 僕は、いい気持だった。叔母さんのところで夕ごはんをごちそうになって、家へ帰った。 その夜ほど、兄さんの帰宅を待ちこがれた事が無い。お母さんは、僕が目黒の家で晩ごはんをたべて来たという事を聞いて、やたらに姉さんの様子を知りたがり、何かとうるさく問い掛けるのであるが、僕は、教えるのが、なんだか惜しくて、要領を得ないような事ばかり言って、あとで兄さんからお聞きなさいよ、僕には、よくわからないんだもの、とごまかして、お母さんの部屋から逃げ出してしまった。 十一時ごろ、兄さんは、ひどく酔っぱらって帰って来た。僕は、兄さんの部屋へついて行って、「兄さん、お水を持って来てあげようか。」「要らねえよ。」「兄さん、ネクタイをほどいてあげようか。」「要らねえよ。」「兄さん、ズボンを寝押《ねおし》してあげようか。」「うるせえな。早く寝ろ。風邪は、もういいのか。」

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