だまって聞いていた

「それぁね、」と乗り出して、「お前みたいな子供に言ったって仕様がないけど、アリもアリも大《おお》アリさ!」どうも叔母さんの言葉は、ほんものの下司《げす》なんだから閉口する。アリもアリも、は、ひどいと思う。「だいいちお前、結婚してから一年も経《た》っているのに、財産がいくら、収入がいくらという事を、てんで奥さんに知らせないってのは、どういうものかね、あやしいじゃないか。」僕は、だまって聞いていた。すると叔母さんは、僕が感心して聞いているものと思ったらしく、さらに調子づいて、「鈴岡さんは、それぁ、いまこそ少しは羽振《はぶ》りがいいようだけど、元をただせば、お前たちのお父さんの家来じゃないか。私ゃ、知っていますよ。お前たちはまだ小さくて、知ってないかも知れんが、私ゃ、よく知っていますよ。それぁもう、ずいぶんお世話になったもんだ。」「いいじゃないか、そんな事は。」さすがに少し、うるさくなって来た。「いいえ、よかないよ。謂《い》わば、まあ、こっちは主筋《しゅすじ》ですよ。それをなんだい、麹町にも此の頃はとんとごぶさた、ましてや私の存在なんて、どだい、もう、忘れているんですよ。それぁもう私は、どうせ、こんな独身の、はんぱ者なんだから、ひとさまから馬鹿にされても仕様がないけれども、いやしくもお前、こちらは主筋の、――」ほとんど畳をたたかんばかりの勢いであった。「脱線してるよ、叔母さん。」僕は笑っちゃった。「もういいわよ。」姉さんも、笑い出した。「そんな事より、ねえ、進ちゃん? お前も兄さんも、下谷の家を、とってもきらっているんでしょう? 俊雄さんの事なんか、お前たちは、もう、てんで馬鹿にして、――」「そんな事はない。」僕は狼狽《ろうばい》した。「だって、ことしのお正月にも、来てくれなかったし、お前たちばかりでなく、親戚《しんせき》の人も誰ひとり下谷へは立ち寄ってくれないんだもの。あたしも、考えたの。」 なるほど、そんな事もあるのか、と僕は思わず長大息を発した。

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