坊やは、よしてくれ

「あら、坊やは少し痩《や》せたわね、叔母さん?」「あ、坊やは、よしてくれ。いつまでも坊やじゃねえんだ。」と僕は、姉さんの前に、あぐらをかいて言った。「まあ。」と姉さんは眼を見はった。「痩せる筈《はず》さ。大病になっちゃったんだよ。きょう、やっと起きて歩けるようになったんだ。」すこし大袈裟《おおげさ》に言った。「おい、叔母さん、お茶をくれ。のどが乾いて仕様がねえんだ。」「なんです、その口のききかたは!」叔母さんは顔をしかめた。「すっかり、不良になっちゃったのね。」「不良にもなるさ。兄さんだって、このごろは、毎晩お酒を飲んで帰るんだ。兄弟そろって不良になってやるんだ。お茶をくれ。」「進ちゃん。」姉さんは、あらたまった顔つきになり、「兄さんは、お前に何か言ったの?」「何も言やしねえ。」「お前が大病したって本当?」「ああ、ちょっとね。心配のあまり熱が出たんだ。」「兄さんが、毎晩お酒を飲んで帰るって、本当?」「そうさ。兄さんも、すっかり人が変ったぜ。」 姉さんは、顔をそむけた。泣いたのだ。僕も泣きたくなったが、ここぞと怺《こら》えた。「叔母さん、お茶をくれよ。」「はい、はい。」チョッピリ女史は、ひとを馬鹿にし切ったような返事をして、お茶をいれながら、「どうにか大学へはいって、やれ一安心と思うと、すぐにこんな、不良の真似《まね》を覚えるし。」「不良? 僕はいつ不良になったんだい? 叔母さんこそ不良じゃないか。なんだい、チョッピリ女史のくせに。」

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